さてみなさん。
下のイラストは、介護現場でよく見られる光景かと思います。
やさしい介護士さんね~。歩くの手伝ってあげてるじゃない?何か問題なの?
確かに問題なさそうに見えます。
この介助は「手引き歩行」と言って、介護現場ではよく実施されている手法です。
また、介護の研修や勉強会でも普通に教えられる方法です。
しかし実は、この手引き歩行は安全な介助方法とは言えず、高齢者の自立支援に則していない歩行介助になります。
ここでは、手引き歩行による移動介助の良くない点を理解し、高齢者が自立した歩行能力を獲得するためにはどうしたら良いかを解説していきます。
目次
まずは、歩行の仕組みをよく考えてみよう!
下の図のように、歩行は「前進していく上半身(重心)を、下半身の足が片足ずつ前に出して支える運動」になります。
つまり、主体的に前方に進もうとしている自分の体を、足が片方ずつ支えることで、歩行という動作になっていきます。
ここでのポイントは2つあります。
- 主体的に自分の体の重心を前方に移動する
- 前方へ移動した重心を、自ら足を前に出す
これが歩行の仕組みになります。
手引き歩行はどんな歩行か?メリットとデメリットを考える
あえて「手引き歩行」のメリットを何かな~と自分なりに考えてみました。
確かに、両方の手をや腕を持つことで、「前後」への転倒を防ぐことが多少出来るかな?と思います。
介護職としては、高齢者にケガや転倒させないようにケアすることを念頭に置いているので、「前後」への転倒を防ぐという意味では、手引き歩行はある意味有効かもしれません。
しかし、既にお話しした通り、転倒リスクや自立支援の視点からは、デメリットの方が多いと考えます。
デメリット1:重心が後方へ変位し、主体的に前方へ移動できない
手引き歩行は、介助者が手を前方に引っ張るので、その作用に対する反作用で、高齢者本人の重心は後ろへ行ってしまします。
これは、先ほど説明したとおり、本来であれば前方へ移動する自分の体の重心を足が支えるのが「歩行」になります。
しかし、手引き歩行は「歩行移動=後方への重心」という記憶回路になってしまい、自分で歩こうとしても、自ら前方に重心移動するという動作ができません。
なので、「介助なしでは歩けない」という体になってしまうのです。
デメリット2:高齢者本人も介助者も、移動方向を見ることが出来ない
まず前提として、手引き歩行は介助している人が後ろ向きになって移動します。
刻一刻と状況が変わる介護現場で、後ろ向きに移動するのはとても危険ですよね。
また、下の写真は、手引き歩行されている高齢者の視点になります。
というか・・・高齢者は前方が全く見えていませ~ん!!
介助者も前方が見えない・・・・
介助される高齢者も前方が見えない・・・・
そう考えると、手引き歩行は安全と考えるのはちょっと違うと思います。
デメリット3:転倒しそうなときに、高齢者を支えることが出来ない
確かに、「手引き歩行」は高齢者が移動する際の前後のバランスを取ることが出来るかもしれません。
しかしながら・・・・
- 高齢者が膝折れで前方に転倒しそうになる
- 左右のバランスを崩し転倒しそうになる
- 介助者が倒れて共倒れになりそうになる
こんなとき「手引き歩行」をしていると、腕だけで支えることになります。
しかし、転倒しそうになる高齢者を腕だけで支え切ることはできません。
もし仮に上手く転倒を防げたとしても、肩を脱臼させてしまったり、肘や手首を痛めてしまうことがあります。
このように手引き歩行は、移動介助と自立支援、両方の視点から見てもあまり良くない手法だということをご理解いただけたかと思います。
では、介護職として、私たちはどのような歩行介助をしたら良いでしょうか?
自立した歩行能力を獲得するための歩行介助とは?
高齢者が主体的に歩けるようになるためには、「自ら前方に重心を移動」「自ら足を出す」ように誘導すれば良いのです。
効果的な歩行介助は次の3つです。
歩行器を使う
歩行器の良いところは、立ったり歩いたりすることが困難な高齢者でも、その体重を支えることができ、それによって歩行器は前方へ移動することができます。
最初は引きずられるように足が前に出ていくが、「重心が前方に移動」することを体が覚え始めます。
それとともに、両足同時ではなく、片足ずつ前に出すことによって、本来の歩行の姿になっていきます。
なので、手引き歩行介助で移動できる高齢者には、まず歩行器を使って自分で歩いてもらうようにしましょう!
寄り添い歩行介助(側方歩行介助)
前方からの手引き歩行だと両手がふさがれてしまい、転倒しそうになったときに支えることはできません。
なので、健側から寄り添うようにして歩行を介助します。
介助者は高齢者の健側の手と同じ手で支え、反対側の手を腰回りに持っていきます。
こうすることで、「前方への重心移動」を促しながらも、「転倒したときの支え」も確保できます。
この時、腋下(わきの下)を持たないようにしましょう。転倒しそうになったときに肩に負担がかかり、脱臼等の恐れがあるためです。
見守り介助
介助や支えがなくても歩けそうな高齢者は、見守りの中、積極的に自分で歩いてもらうようにしましょう。
最後は自分の力で歩くように促すのが、介護職の仕事だと思います。
補足説明:平行棒を使った歩行訓練は、高齢者に有効か?
リハビリテーションの病院では、脳梗塞などの病気や骨折の術後のリハビリ(回復期)で、平行棒を使った歩行訓練が行われます。
これは、段階的に歩行訓練のレベルを上げて行く(距離を延ばす→屋内歩行→屋外歩行)過程の出発点として実施することで、初めて効果が表れます。
間違って使うと、平行棒も手引き歩行と同じく棒を引っ張ってしまい、その作用に対する反作用で、高齢者本人の重心は後ろへ行くことになります。
よって、回復期を過ぎた高齢者に平行棒を使って歩く練習をしても、正しい歩行訓練になりません。
まとめ:手引き歩行介助をやめて、自立歩行を促す歩行介助をしよう!
いかがでしたでしょうか?
周りの介護職がやっているし、学校でも教わったから、ついやってしまう「手引き歩行」。
でも実際には、介助がなければ歩くことが出来なくなってしまう体を作っています。
介護職の仕事は自立支援です。
そして、歩行は自立する上で一番大切な動作です。
高齢者からその動作能力を奪わないような介護をしていきたいですね。