<歩行能力は歩行によって再獲得される!> 運動学習理論を理解して、正しい歩行訓練を実施しよう!

さて、みなさん。

下記のイラストは、介護施設でよく見られる運動やレクレーションの様子になります。

何か気が付きませんか?

みんな楽しそうに運動したり遊んだりしてるじゃない?特に問題ないと思うけど・・・

そうですね。

確かに、介護施設別に目的が違うので、上記のようにレクレーションや上半身の運動をしていても、そのこと自体には特に問題はありません。

しかしながら、これを「歩行」という視点から見ると、体を動かしてはいますが、「歩行訓練」にはなってはいません。

別の記事でも書きましたが、ADLの根幹は「歩行」です。こちらを参照

歩行が出来れば、他のADLも改善して、QOLも改善していきます。

よって、デイサービスなどの介護施設で上記のような「運動」しても、高齢者の生活の改善にはつながらないということです。

では歩行はどのようにしたら獲得できるのでしょうか?

自立支援介護では、「運動学習理論」に基づいて、歩行も歩行によってのみ獲得されると言っています。

ここでは、運動学習理論をもとに、歩行は歩行訓練によってのみ獲得されることを理解して、実際どのように歩行訓練をしたら良いかを解説していきます。

運動学習理論とは何か?

「運動学習理論」は人が立ったり歩いたり、スポーツやピアノを弾くなど、生活の中である動作をしなくてはならないこと(動作の課題)に対して、反復運動によってその動きができる状態を作り出し、脳の記憶回路が神経システムを通して、必要な筋肉システム(制御機能)を動かし始める全体の流れを言います。

つまり、ある運動を継続して繰り返していくと、脳の中で神経の接続を作り出し、それによってその運動そのものが自然な動きとして形成されていくことになります。

運動学習理論の原則は下記の3つです。

  1. 「そのものを使った練習」
  2. 「反復練習する」
  3. 「練習量を増やす」

もっと簡単に説明すると、「いっぱいその動きを練習したら、上達するよ!」ってことです。

運動学習には3つのステージがあります。ここでは「ピアノを弾く」ことを例に説明していきます。

学習初期

動作練習の初期段階では、人の体が試行錯誤をしながら、正しい動きが何なのかを探っていきます。

ピアノを弾く場合も、最初は指がひとつひとつの音符を確認しながら、そして鍵盤を確認しながら弾きます。

その動きはぎこちなく、ゆっくりとした動きです。

しかしこの段階で重要なのは、「正しい動き」を「脳の記憶回路」に定着させることなのです。

なので、ひとつひとつの動きを考えながら運動していくことになります。

学習中期

動作練習の中期段階では、常に考えながらではなく、動きのスピード、滑らかさが増して、1つの動きに対する神経回路を形成します。

ピアノを弾く場合でも、考えながら弾いていたピアノが、脳の記憶回路から「この曲を弾く」と指令が来ると、その曲を弾くことができるのと同じです。

ただし、この段階では無意識に動くところまでは行かず、速さやリズムなどの調節が行われます。

学習後期

動作練習の後期段階では、意識的に動かすことはなく、自動化して滑らかな動きになって来ます。

いわゆる「反射的に動ける」ようになってきます。

ピアノで言うと、「ピアノに座って鍵盤に触れると勝手に曲を弾きだす」のと同じになります。

このように、どんな動作の練習でも、最初の動きに粗さやぎこちなさがあり、脳からの意識的な注意と集中が必要としますが、練習を重ねていくうちにその動作が細やかかつ滑らかになって来て、注意と集中が不要になってきます。

これが「運動学習理論」になります。

歩行も「学習」によって歩けるようになる

上記のピアノと同じように、歩行も同じことが言えます。

運動学習理論の原則にもとづけば、

  1. 「歩行」を使って「歩行練習」をする
  2. 「歩行練習」を反復する
  3. 「歩行練習」をたくさんする

・・・ということになります。

歩行が出来なくなった高齢者の多くは、ケガや病気、加齢によって行動範囲が狭まり、歩行する機会を失い、その結果ととして歩行をしなくなり、「歩行の仕方」を忘れるという「廃用症候群」的なケースです。

いったん出来上がった運動の神経回路も、その運動を休んでいると衰退し始め、やがてその運動が出来なくなってしまいます。

しかしながら、一度歩行したことがある高齢者ならば、その神経回路を再度回復させれば良いのです。

最初のうちはぎこちなく、一歩一歩考えながら歩く練習をするかもしれません

しかし、次第に脳の記憶回路に歩行動作の正しい情報が再度インストールされ、次第に細やかな滑らかな動きが無意識にできるようになります。

リハビリ病院で行われるリハビリと介護施設での機能訓練の違い

リハビリ病院では、脳卒中後回復期に「姿勢・支持性・動作性」の3つを改善させようとします。

流れとしては下記のようになります。

  1. 立位姿勢が安定
  2. 立位姿勢を両脚である程度支持できる
  3. 特に麻痺の下肢が前に出て歩行動作ができる
  4. 平行棒を使って歩行訓練
  5. T字杖もしくは4点杖を使って歩行訓練
  6. 安定性がある程度確立したら平行棒の外で歩行訓練

つまり、姿勢がしっかりできるようになってから、歩行訓練を開始するという考えになっています。

脳卒中などの回復期におけるリハビリでは、この「姿勢優勢」の方法が効果的ではあります。

その一方、介護施設の場合は、廃用症候群や運動不足など、活動量が少ないために歩けなくなっているケースが多いです。

なので、生活の中に「歩く」という活動を増やすことで、歩行能力を回復していく方が効果的です。

介護施設での具体的な歩行訓練の流れ

では実際にどのような流れで歩行訓練をしていったら良いでしょうか?

全体図を見ながら説明していきます(介護の生理学P149の図をもとに作成)。

5秒つかまり立ちテスト

まずは手すりを掴んでもらい、5秒間掴まったままで良いので立位を保持出来たら、すぐに歩行訓練に移ります。

5秒間掴まり立位が保持できるということは、「介助歩行器歩行」によって「歩行訓練」ができることを意味します。

基本「立てる人は歩ける」という考えから、つかまり立ちが出来れば歩けるということになるわけです。

歩行器を使う

平行棒を使っての歩行訓練が一般的ですが、手引き歩行同様、重心が後ろに行ってしまう歩行になります。

その一方、歩行器は支持性が高く、歩行本来の重心が前に行く練習がしやすいです。

詳しくはこちらのHPをご参照下さい。

1日の歩行回数・距離を多くする

運動学習理論から考えれば、すべての動作は反復練習を重ねることによって習得できます。

歩行も同じです。

忘れてしまった歩行の仕方を取り戻すには、歩行の練習量を増やし、歩行する距離を伸ばしてくしかありません。

訓練するときだけでなく、生活の中に歩行する機会をどんどん入れていきましょう。

やってはいけないこと・効果がないこと

  1. 手引き歩行・平行棒歩行・・・・これに関してはこちらを参照願います→HP
  2. 関節可動域訓練・・・・ベットや車いす中心の生活をしているにも関わらず、末梢神経だけを動かしても歩行の訓練にならない・・・という意味です。
  3. 寝返り、起き上がり、立ち上がり訓練・・・これらは~回復期に行われる訓練で、廃用症候群などで運動能力を失った高齢者には、歩行の訓練として意味がありません。

免荷装置付トレッドミルを活用して歩行訓練をする

以前私が勤めていた「ポラリスデイサービスセンター」では、下記のように「免荷装置付トレッドミル(通称:Pウォーク)」を使って歩行訓練をしていました。

免荷装置を付けることで、体重が最大半分まで免荷することができ、正しい足の運びに集中して歩行練習をすることが出来ます。

また、免荷装置を付けることで転倒の防止につながり、歩行中にスタッフが常時いなくても練習が出来ます。

動画があるので、是非ご覧ください。

事業所様で導入にご興味ある方は、下記のお問合せまでご連絡下さい。

まとめ:5秒立位保持できる人にはすぐに歩行訓練してもらい、歩行の自立を促そう!

如何だったでしょうか?

運動学習理論はそんなに難しいことを言ってはいません。

立位保持できる人は歩くことが出来ます。

なので、歩く機会が増えれば、必ず歩けるようになります。

介助で忙しく、ついつい車いすとかで移動させてしまっているかもしれません。

しかし、高齢者の自立を促すのであれば、是非歩行の機会を増やしていきましょう。

必ず良い結果が生まれて来ますよ。

 

 

<車いすは移動手段であって椅子ではない>車いすから離れて、自立した生活を促そう!

さて、みなさん。

下のイラストは、介護施設でよく見られる光景ですが、何か問題に気が付きませんか?

特に問題はないような気がします。普通に車いすに座って運動したり、食事をしたりしてますね!

そうですね。

確かに普通に車いすに座って、運動したり、食事をしたりしています・・・

でも、考えて見て下さい。

車いすって何のためにあるのでしょうか?

公益財団法人・長寿科学振興財団のHPには、車椅子の定義を下記のようにしています。

車いすとは、下肢や体幹などに障害がある人、高齢で長い時間歩いて移動できない人のための、移動用の補助用具です。

また、リハビリテーション中伊豆温泉病院作業療法科・主任金子智治先生も、HPで下記のように定義しています。

車椅子とは、移動する能力に困難が生じた際に、それらの機能を補う目的で使用される福祉用具です。

このように、車いすはもともと「移動手段」として作られたものなのです。

一番上のイラストは、運動したり食事をしたりするときに車いすに座っていますが、移動の手段として使っているのではなく、座位姿勢を維持する(座っているだけの)ために使っています。

疾患を持っていて、通常の椅子に座れない方もいますので、「全員車いすにずっと座っているな!」ということは言いません。

しかし、通常の椅子に座ることが出来る方でも、介護職の方で「忙しいのでそのまま車いすに座らせる」ことが多いのが現状です。

車いすを「移動手段」として使うだけでなく、すべての生活で車いすに座っていると、「食事」と「歩行」のケアにおいて課題が出てきます。

ここでは、車いす生活が「食事」と「歩行」にどのような影響を与えるかを理解して、車いすなしの生活を取り戻す方法をお伝えします。

<車いすに座って食事をする弊害>食事姿勢が崩れる

上の図のように、食事をするときの姿勢はとても大切です。

足底がきちんと床についていて、腰も直角になっている状態が、咀嚼(噛む)力を発揮することができ、嚥下(飲み込み)もスムーズになります。

また、唇ー舌ーのどの線が水平になっていると、食べ物や水を口の中でコントロールしやすくなります。

一方、車いすの座位を見てみましょう。

車いすに座っていると、その構造上お尻の方が低く座るようになります。

そうすると、背中が丸くなり、あごが突き出てる姿勢になります。

そして、車いすのままで食事をすると、その「悪い姿勢」まま食事をすることになります。

「介護の生理学」P76によると・・・

ベット上で食事をしたり、あるいは食堂には行くが車いすに乗ったまま食事をする人では、むせが多くなります。

極端にいうと、こんな感じで食事をするわけです・・・

これだと、誤嚥性肺炎の可能性は高まりますし、胃も圧迫されて苦しくなってしまいます。

車いすにずっと座って生活する弊害とは?

 

車いすは、本来は移動の補助器具です。

しかしながら、車いすを常に使うということは、立ち座りをする機会を失うことになります。

つまり、膝を伸展することが少なくなり、膝が90℃に拘縮する可能性があります。(屈曲拘縮)

こうなると、車いすなしでの生活は出来なくなり、歩行の自立を失うことになります。

 

如何でしょうか?車いすは介助するに便利な道具ですが、「移動の補助具」以外の目的で使用すると、高齢者の歩行と食事の自立性を失うことになります。

 

車いすなしで自立した生活をするためには?

それでは、車いすをどのように使って、高齢者の自立を高めて行ったら良いでしょうか?

食事のときは食卓椅子に座る

車いすはあくまでも「移動の補助具」です。

既に説明した通り、食事をするのにふさわしい椅子ではありません。

食事のときは、食卓の椅子に移り変わって食事をしてもらいましょう。

もちろん、レクレーションやイベント参加のときも、車いすに座って参加するのではなく、椅子に座ってもらいます。

そうすることで、車いすに頼らない生活習慣を作ることが出来ます。

歩行の機会を意識的に増やし、車いすを使わないようにする

車いす生活は、歩行をする機会を失います。

歩かなければ、歩くことを忘れてしまいます。

なので、車いすに頼らないで移動する習慣を促す必要があります。

トイレに行くとき、食堂に行くとき・・・・

ちょっとした距離から歩行してもらうようにうながしていきましょう。

上の写真のように、膝の拘縮があっても、歩く訓練を継続することによって、歩けるようになります。

介護現場で、車いすに座って移動している高齢者がいても、ここまでひどい人は少ないと思います。

手遅れになる前に、歩行してもらうように声をかけをしていきましょう。

まとめ:車いすは移動の補助具!出来るだけ使わないで自立を促そう!

如何だったでしょうか?

確かに介護現場は忙しく、ついつい車いすで移動介助をしてしまいますよね。

でも、その1つ1つの介助が、実はその高齢者の自立を奪っています。

是非ケア全体を見直してもらい、車いすを使わないケアを考えてみては如何でしょうか?

必ず良い結果が見られますよ!

 

 

<朝一番の水分が最高の下剤?> 起床後の胃大腸反射で大ぜん動運動を起こして便秘を解消しよう!

介護施設で勤務していたとき、ご入居者様が2~3日以上排便がないと、よく下剤を服用させられていたのを見ていました。

そのときは決まって刺激性下剤であり、その日の夜勤は排泄介助の嵐となるので、自分も嫌でしたが、ご入居者様もいやだったろうと思います。

そんな経験、みなさんもしたことありませんか?

別の記事でもお伝えしましたが、下剤の多用は更なる便秘に発展し、決して自然な排便になりません。

自然な排便リズムを取り戻すなら、まずは朝1番の水分摂取を開始し、胃大腸反射により大腸の動きを活発に始める習慣を作ることが始めることが大切になってきます。

ここでは、下剤を使って「ぜん動運動」を誘発するよりも、まずは朝一番の水分摂取が胃大腸反射を起こすことで「大ぜん動運動」を誘発する方が、安全で自然な排便を促すことを勉強していきます。

ぜん動運動と大ぜん動運動の違い

ここで、「ぜん動運動」と「大ぜん動運動」の違いを明確にしておきます。

ぜんどう運動

「ぜんどう運動」とは腸の内側が収縮(せばまったり)したり、弛緩(広がる)したりすることで、食物を腸内の中を通して、肛門の方へと押し進めていく運動のことです。

このぜん動運動は、体が起きている時も寝ている時も、24時間いつでも起きているのが特徴です。

大ぜん動運動

「大ぜん動運動」とは、便を大腸から直腸まで一気に移動させ、体外に排出しようとする腸の動きのことを言います。

これは1日に2~3回しか起きませんが、「ぜん動運動」の200倍の力で便を移動させることが出来ます。

排便を誘発する便意は、「大ぜん動運動」がきっかけになる

内容物がぜん動運動により便と変化しながら腸の中を移動し、一度S字結腸のところに貯まります。

この状態では直腸には便が来ていないので、いくら踏ん張っても出てきません。

よく看護師さんが摘便をするときに「便が下りて来ていない」というのは、この直腸に便が来ていないことを意味します。

ここで直腸に便を移動させることが出来るのは、

この大ぜん動運動によって便が直腸に行くと、直腸が伸張反射を起こし、脊髄に伝わり、それが脳に上がって便意となり、排便を促すことになります。

このように、高齢者の排便リズムを作り出すには、大ぜん動運動を起こして「S字結腸から直腸へ便を移動」させることがカギとなります。

大ぜん動運動を起こすためにはどうしたら良いか?

高齢者の便秘を解消させるためには、大ぜん動運動を起こす必要があるということを理解できたかと思います。

では、その大ぜん動運動を起こすためにはどうしたら良いでしょうか?

①8時間の空腹時間を作る

大ぜん動運動は「胃と小腸が空っぽの状態になって起きる」のです。(引用:https://rebirth-asakusa.com/5795/)

食事をすると、胃の中で3時間、小腸で5時間位かけて消化されたあとに、大腸に流れていきます。

その消化をしている間は「大ぜん動運動」が起きません。

なので、夕食を食べた後、夜中に何も食べない状態にして朝を迎えると、その時は「胃と腸が空っぽの状態」になり、「大ぜん動運動」が起こりやすい状態になっています。

②空腹の状態で食物や水を摂って「胃大腸反射」を起こす

その一方、口から食物が胃の中に入ったとき、数分で大ぜん動運動を起こすこともあります。

これを「胃大腸反射」言います。

例えば、大腸の中に内容物がある状態で、胃の中に食べ物が入って来ると、反射中枢を通って大ぜん動運動を起こし、内容物を押し進めていくことになります。

これによって、S字結腸に貯まっていた便が直腸へと移動し、排便を促すことになります。

この2つの状態を作り出すことで、より大ぜん動運動を起こす可能性を高めることはできないでしょうか?

朝一番の水分摂取で、胃大腸反射を起こし、大ぜん動運動を誘発する!

そうです!

空っぽになっている朝一番の中に水分を入れることで、上記の二つの条件を同時に満たすことになります。

水分は胃の中を刺激して「胃大腸反射」を誘発するだけでなく、便を形成する水分(増量剤)としても用いられます。

なので、便秘で苦しんでいる高齢者には、まず朝一の水分摂取を促して、大ぜん動運動を促してみましょう。

下剤の連用は直腸性便秘になりやすい

下剤を常に使っていると、大腸に貯まっている便がS字結腸で貯まることなく、常に直腸に貯まることになり、次第に直腸の感受性を弱めていきます。

そうすると、「便意」を脳で感じることができなくなり、「排便」を促すことが出来なくなり、直腸に常に便が貯まることになります。

下剤にはそのような危険性があります。

なので、まずは出来るだけ自然な形でS字結腸から直腸に便が移動する「大ぜん動運動」を促すようなケアが必要となってきますので、是非朝一の水分ケアから始めていきましょう。

詳細はこちらもご参考下さい:https://tjcareconsultant.com/defecation/

まとめ:排便の仕組みを理解して、朝一番の水分摂取を促そう!

如何だったでしょうか?

単に「水分摂取で便秘を治す」と言っても、なぜそうなのか?を理解することが大切です。

高齢者の便秘を解消するには・・・

  • 大ぜん動運動を促す
  • そのためには、胃と小腸を空にする
  • また、空腹の胃の中に水分や食べ物を入れる
  • その最高のタイミングが朝一で水分を飲んでもらうのが一番である

・・・と、自分の中で理論的に説明できるようになると、自信を持ってケアすることができます。

ぜひ今日から実践してみて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

<食事介助は自立を妨げる?> 自力摂取を促すためにはどうしたら良いか?

さてみなさん。

下のイラストは、介護現場でよく見られる光景かと思います。

手厚い介護で良いと思いますが、何か問題ですか?

そうですね~。問題なさそうに見えます。

食事介助は介護現場でよく実施されている手法ですし、初任者研修や資格の勉強会でも普通に教えられる方法です。

しかし、食事介助は食事の自力摂取を取り戻す機会を失うだけでなく、安全な介助方法ではなく、誤嚥性肺炎になる可能性を高めています。

確かに、ケガや病気のために自力で食事を摂ることが出来ない場合、食事介助が必要かと思います。

その一方で、”食事時間が長くならないように”するために、時間を掛ければ自分でも食べることが出来る高齢者にも「食事介助」をすることが、介護施設でよく見かけられます。

(でもでも・・・・その気持ちもすご~~~く分かります(( ノД`)シクシク…)

しかし介護のプロとしては、「この高齢者は本当に食事介助が必要なのか?」見極める能力も必要かと思います。

ここでは、食事介助が招く問題を改めて考えて、自力摂取を促す方法を解説します。

 

「食事介助」が招く問題点

「食事」とはいったい何か?

別の記事でも上げましたが、食事の持つ意味は「文化」として、「栄養」として、「摂食」としての視点があります。

この3つの視点をバランスよくケアすることが、本来の食事ケアになります。

(詳しくはこちらを確認→https://tjcareconsultant.com/diet/ )

しかしながら、食事介助はこの3つの視点を崩してしまう介助になってしまいます。

では、具体的にどんな問題が起こるか?解説していきましょう。

①自立した個としての存在を否定する

赤ちゃんが成長していく過程で、歩行・食事・トイレを自分で行うようになってきます。

歩行は自分で行動する範囲を広げ、トイレもおむつから離れ、自分の意志で排泄処理をするようになります。

食事も同じことが言えて、「自分の意志で食べ物を選んで口に入れる」という行動になっていき、他人への依存度が低下して、食事の自立度が上がっていきます。

しかし、大人に成長し自立した食事をしてきたにも関わらず、ケガや病気で介護状態に陥り、「自分で食事が出来ない」前提で介護職に「食事介助」させられてしまうと、せっかく維持してきた食事の自立性を低下させる危険性があります。

②食事の味を失わせる

まさか・・・同じものを食べてるのに味が違うの?・・・

・・・と思うかもしれませんが、食べ物の味には「主体性」が強く影響してきます。

本来であれば、自分の意志で食べる順番を決めて、1つのものから次へと食べていきます。

その主体性の中に五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚(=食感))が含まれていて、それを感じながら食事の味を味わうのです。

しかし、食事に主体性がなくなると、それらの感覚も鈍くなり、食事の味も変わってきます。

③誤嚥を起こしやすい

主体的に食事をするということは自分のタイミングで食事が出来ます。

つまりで、摂食→咀嚼→嚥下を自分でコントロールしていることになります。

しかし、食事介助をすることによって、そのタイミングがずれてしまい、誤嚥する可能性が高まります。

特に咀嚼をしっかりして「食塊」を作ることが、嚥下機能の向上につながりますが、この食塊を作るのに時間がかかるにも関わらず、食事介助によって一定の間隔で次々と食べ物が口に入れられてしまいます。

そうするとしっかりとした食塊を作ることが出来ずに、嚥下が上手くいかず、誤嚥してしまうことがあります。

食事介助・・・・実際にやってみました・・・・

この写真は、私の介護教室「かいごのへや」で、実際にみんなで食事介助をし合ってみました。

やってみての感想はやはり・・・・

  • 「食べずらい」
  • 「タイミングが分からない」
  • 「いつスプーンが来るかわからない」
  • 「味がわからない」・・・・

といったことを言っていました。

このように「食事介助」は、自立支援・安全性、両方の視点からも良くない介助だということが理解できたかと思います。では、どのようにしたら他人依存の「食事介助」を止めることが出来るでしょうか?

 

食事介助から自力摂取へ促す方法は?

インターネットで、食事介助になる理由を検索してみると・・・・

  • 身体的な衰え・・
  • 認知機能の低下・・・
  • 嚥下や咀嚼機能の低下・・・
  • 味覚の衰え・・・

・・・などなどが上がってきます。

なので、これらに対してどのように対応するかを考える必要があります。

①「なぜ自力摂取ができない体なのか?」を考え、4つの基本ケアを実践する

食事介助の理由はすべて、身体的衰えが理由になっていますね。

介護の現場にいると、どうしても目の前の事象に対して対応することが多いです。

目の前の高齢者が「食事ができない」・・・だから食事介助をする・・・

しかし、これらは「4つの基本ケア」をしっかり実践し高齢者自身を元気にさせることで、自力摂取を促しやすくなっていきます。

まずは、「水分ケア」と「運動=歩行ケア」を開始してください。

水分飲んで、体を動かすことによって、日中の意識も覚醒し、口腔機能も回復してきます。

また、お腹も動き出してきますので、「食欲」も回復してきます。

そうすることで、自力摂取へと変わっていくことが出来ます。

②高齢者本人が好む食事を提供する

食事は五感を使って楽しむ動作になります。

常態的に食事介助になっても、好きな食べ物は自ら食べることがあります。

これは私の経験ですが、胃ろうを付けた方がデイサービスをご利用になっていました。

普段は胃ろうで食事をすましていましたが、あるとき自宅で自分の好きなケーキを自分から食べたとのこと。

そして、むせることなく飲み込めたと聞きました。

その話を聞いてから、4つの基本ケアを実践しながら、ご本人の好きな食べ物を提供して自分で食べてもらうようにしたら、その後段々と自力摂取になっていきました。

なので、「好きな食べ物」から自力摂取をしてもらうところから始めてみて下さい。

まとめ:「水分+運動+好きな食べ物」で、食事介助から自力摂取へ促そう

如何だったでしょうか?

時間に追われてついやってしまう「食事介助」。

しかし、食事動作そのものに注目するのではなく、「なぜ食べられなくなったのか?」を考えることが大切です。

4つの基本ケアを実践していけば、高齢者は元気になり、自然に食事も自分で摂るようになります。

是非、視点を変えて、自力摂取を促せるようになっていきましょう。

 

何かご意見やご相談、「食事介助」から自力摂取になりました~などの話があれば、コメントもらえる嬉しいです!

<手引き歩行は安全な介助?自立した歩行にならない?>歩行の仕組みを考えて、正しい歩行介助や歩行訓練をしよう!

さてみなさん。

下のイラストは、介護現場でよく見られる光景かと思います。

やさしい介護士さんね~。歩くの手伝ってあげてるじゃない?何か問題なの?

確かに問題なさそうに見えます。

この介助は「手引き歩行」と言って、介護現場ではよく実施されている手法です。

また、介護の研修や勉強会でも普通に教えられる方法です。

しかし実は、この手引き歩行は安全な介助方法とは言えず、高齢者の自立支援に則していない歩行介助になります。

ここでは、手引き歩行による移動介助の良くない点を理解し、高齢者が自立した歩行能力を獲得するためにはどうしたら良いかを解説していきます。

まずは、歩行の仕組みをよく考えてみよう!

下の図のように、歩行は「前進していく上半身(重心)を、下半身の足が片足ずつ前に出して支える運動」になります。

つまり、主体的に前方に進もうとしている自分の体を、足が片方ずつ支えることで、歩行という動作になっていきます。

ここでのポイントは2つあります。

  1. 主体的に自分の体の重心を前方に移動する
  2. 前方へ移動した重心を、自ら足を前に出す

これが歩行の仕組みになります。

手引き歩行はどんな歩行か?メリットとデメリットを考える

あえて「手引き歩行」のメリットを何かな~と自分なりに考えてみました。

確かに、両方の手をや腕を持つことで、「前後」への転倒を防ぐことが多少出来るかな?と思います。

介護職としては、高齢者にケガや転倒させないようにケアすることを念頭に置いているので、「前後」への転倒を防ぐという意味では、手引き歩行はある意味有効かもしれません。

しかし、既にお話しした通り、転倒リスクや自立支援の視点からは、デメリットの方が多いと考えます。

デメリット1:重心が後方へ変位し、主体的に前方へ移動できない

手引き歩行は、介助者が手を前方に引っ張るので、その作用に対する反作用で、高齢者本人の重心は後ろへ行ってしまします。

これは、先ほど説明したとおり、本来であれば前方へ移動する自分の体の重心を足が支えるのが「歩行」になります。

しかし、手引き歩行は「歩行移動=後方への重心」という記憶回路になってしまい、自分で歩こうとしても、自ら前方に重心移動するという動作ができません。

なので、「介助なしでは歩けない」という体になってしまうのです。

デメリット2:高齢者本人も介助者も、移動方向を見ることが出来ない

まず前提として、手引き歩行は介助している人が後ろ向きになって移動します。

刻一刻と状況が変わる介護現場で、後ろ向きに移動するのはとても危険ですよね。

また、下の写真は、手引き歩行されている高齢者の視点になります。

というか・・・高齢者は前方が全く見えていませ~ん!!

介助者も前方が見えない・・・・

介助される高齢者も前方が見えない・・・・

そう考えると、手引き歩行は安全と考えるのはちょっと違うと思います。

デメリット3:転倒しそうなときに、高齢者を支えることが出来ない

確かに、「手引き歩行」は高齢者が移動する際の前後のバランスを取ることが出来るかもしれません。

しかしながら・・・・

  • 高齢者が膝折れで前方に転倒しそうになる
  • 左右のバランスを崩し転倒しそうになる
  • 介助者が倒れて共倒れになりそうになる

こんなとき手引き歩行」をしていると、腕だけで支えることになります。

しかし、転倒しそうになる高齢者を腕だけで支え切ることはできません。

もし仮に上手く転倒を防げたとしても、肩を脱臼させてしまったり、肘や手首を痛めてしまうことがあります。

このように手引き歩行は、移動介助と自立支援、両方の視点から見てもあまり良くない手法だということをご理解いただけたかと思います。

 

では、介護職として、私たちはどのような歩行介助をしたら良いでしょうか?

自立した歩行能力を獲得するための歩行介助とは?

高齢者が主体的に歩けるようになるためには、「自ら前方に重心を移動」「自ら足を出す」ように誘導すれば良いのです。

効果的な歩行介助は次の3つです。

歩行器を使う

歩行器の良いところは、立ったり歩いたりすることが困難な高齢者でも、その体重を支えることができ、それによって歩行器は前方へ移動することができます。

最初は引きずられるように足が前に出ていくが、「重心が前方に移動」することを体が覚え始めます。

それとともに、両足同時ではなく、片足ずつ前に出すことによって、本来の歩行の姿になっていきます。

なので、手引き歩行介助で移動できる高齢者には、まず歩行器を使って自分で歩いてもらうようにしましょう!

寄り添い歩行介助(側方歩行介助)

前方からの手引き歩行だと両手がふさがれてしまい、転倒しそうになったときに支えることはできません。

なので、健側から寄り添うようにして歩行を介助します。

介助者は高齢者の健側の手と同じ手で支え、反対側の手を腰回りに持っていきます。

こうすることで、「前方への重心移動」を促しながらも、「転倒したときの支え」も確保できます。

この時、腋下(わきの下)を持たないようにしましょう。転倒しそうになったときに肩に負担がかかり、脱臼等の恐れがあるためです。

見守り介助

介助や支えがなくても歩けそうな高齢者は、見守りの中、積極的に自分で歩いてもらうようにしましょう。

最後は自分の力で歩くように促すのが、介護職の仕事だと思います。

補足説明:平行棒を使った歩行訓練は、高齢者に有効か?

リハビリテーションの病院では、脳梗塞などの病気や骨折の術後のリハビリ(回復期)で、平行棒を使った歩行訓練が行われます。

これは、段階的に歩行訓練のレベルを上げて行く(距離を延ばす→屋内歩行→屋外歩行)過程の出発点として実施することで、初めて効果が表れます。

間違って使うと、平行棒も手引き歩行と同じく棒を引っ張ってしまい、その作用に対する反作用で、高齢者本人の重心は後ろへ行くことになります。

よって、回復期を過ぎた高齢者に平行棒を使って歩く練習をしても、正しい歩行訓練になりません。

まとめ:手引き歩行介助をやめて、自立歩行を促す歩行介助をしよう!

いかがでしたでしょうか?

周りの介護職がやっているし、学校でも教わったから、ついやってしまう「手引き歩行」。

でも実際には、介助がなければ歩くことが出来なくなってしまう体を作っています。

介護職の仕事は自立支援です。

そして、歩行は自立する上で一番大切な動作です。

高齢者からその動作能力を奪わないような介護をしていきたいですね。

 

 

<夜間頻尿・尿失禁の治し方>日中の”水分摂取”と”運動量”アップが、夜中のトイレを減らす!

最近夜中にトイレに行くようになってしまって、ぐっすり眠れなくなって来たのね~。

そんな高齢者多くありませんか?

国立長寿医療研究センターの統計によると、”男女ともに年齢が高くなるほど「夜間頻尿がある」方の割合が高くなり、また尿の回数は高齢の方ほど多い”とのことです。

(引用:https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/ep/topics/14.html)

夜中の頻尿は睡眠を妨げてしまい、日中も眠気が増したりして、日々の生活に活気がなくなっていくでしょう。

また、夜中の失禁も多いと、排泄介助も頻回になり、介護現場やご自宅での介護負担が増加します。

もちろん、病気や老化により泌尿器系の衰えから頻尿や尿失禁することもあります。

しかし、4つの基本ケアで根本的に治すことはできないのでしょうか?

ここでは、「夜間頻尿・尿失禁」がなぜ起こるか?そして、その対策をお伝えしていきます。

4つの基本ケアから考える”夜間頻尿・尿失禁”の原因とは?

さて、みなさん。

夜中にトイレに行くときの状況をよ~く思い返して下さい。

  1. トイレに行きたくなったから、眠りから目を覚まして、トイレに行くか?
  2. 眠りから目を覚まして、尿が貯まっているのに気づいて、トイレに行くか?

さ~どっちでしょう?

タマゴが先か?ニワトリが先か?という話になりますが、たいていは2の「眠りから目を覚まして、尿が貯まっているのに気づいて、トイレに行く」ことが多いかと思います。

日中、気持ちよく運動したり、楽しい活動をした日の夜は、ぐっすり寝ることがおおいではないでしょうか?

そして、朝まで寝て、気が付いていたら「おしっこが貯まってた」ということがあると思います。

実は、自律神経の作用で、夜間は膀胱容量が昼間の1.5〜2倍に増えるので、実は夜の方がおしっこが貯まりやすいのです。

(引用:https://www.kissei.co.jp/urine/about_urine/about.html)

でも、頻尿になったり尿失禁したりするのは、夜中に身体が目覚めてしまい、おしっこが貯まってことに気づいてしまうからです。

つまり逆に言うと、「熟睡」していれば、夜中に目を覚ますことがなく、おしっこが貯まっているのを気づかずにいられるので、朝までトイレに行くことがないのです。

夜間頻尿・尿失禁を治す方法とは?

 ①”水分量”と”運動量”アップで日中は覚醒させる

人間の体の半分以上は水分で出来ています。

体重の1~2%(約250~500㏄)がなくなるだけで、ボーとし始めたり、意識が遠くになり始めます。

上の図を見てもらうとわかると思いますが、水分の摂取量が多いと、日中と夜間の覚醒度合いに大きな差が見られます。

つまり、日中は活動的で、夜間はぐっすり眠ることになります。

その一方、水分の摂取量が少ないと、日中と夜間の覚醒度合いが小さくなります。

つまり、日中もあまり活動的でなく、傾眠がちになり、夜も熟睡できずに、浅い睡眠で何度も起きることになります。

なので、日中しっかり水分を摂って自分の体を覚醒させ、その反動で夜はぐっすり寝るようにすると、夜間頻尿や尿失禁が改善していきます。

また、歩行・運動することで体が覚醒します。覚醒すれば尿意の知覚も良くなり、抑制などのコントロールも期待できます。

②「歩行」などの運動で身体活動量を上げて、血液循環を活発にさせる

(図の引用:介護の生理学 P46より)

老化によって、心臓(心ポンプ)と筋肉(筋ポンプ・特にふくらはぎ)が衰えてしまい、全身の血液循環は少なくなってきます。そうすると”重力の法則”に従い、活動的な生活をしていないと、必然的に加齢とともに日中の排尿頻度が少なくなります。

一方で、寝ているの血液の循環は重力に関係なく自由に動き回るので、おしっこが出やすくなるのです。

なので、「日中活動量を増やしておしっこを多く出してもらい、夜は少なくしてもらおう」ということが必要になります。

まとめ:日中は「歩いて」「動いて」「水分摂って」、からだを覚醒させて、トイレにたくさん行きましょう!

いかがだったでしょうか?

夜のトイレを気にして日中の水分量を減らす人がいますが、水分量を減らすと逆に夜間トイレの頻度が多くなります。

また、頻尿だと言って安易に薬を飲む方もいるでしょう。

しかし、まずは日中は水分量を上げて、活動的な生活を心がけて、適度な疲労感を意識的に作りましょう。

そして、夜はそのままぐっすり寝て、朝起きられます。

そうすると、良い結果が表れて来ると思います。