<車いすは移動手段であって椅子ではない>車いすから離れて、自立した生活を促そう!

さて、みなさん。

下のイラストは、介護施設でよく見られる光景ですが、何か問題に気が付きませんか?

特に問題はないような気がします。普通に車いすに座って運動したり、食事をしたりしてますね!

そうですね。

確かに普通に車いすに座って、運動したり、食事をしたりしています・・・

でも、考えて見て下さい。

車いすって何のためにあるのでしょうか?

公益財団法人・長寿科学振興財団のHPには、車椅子の定義を下記のようにしています。

車いすとは、下肢や体幹などに障害がある人、高齢で長い時間歩いて移動できない人のための、移動用の補助用具です。

また、リハビリテーション中伊豆温泉病院作業療法科・主任金子智治先生も、HPで下記のように定義しています。

車椅子とは、移動する能力に困難が生じた際に、それらの機能を補う目的で使用される福祉用具です。

このように、車いすはもともと「移動手段」として作られたものなのです。

一番上のイラストは、運動したり食事をしたりするときに車いすに座っていますが、移動の手段として使っているのではなく、座位姿勢を維持する(座っているだけの)ために使っています。

疾患を持っていて、通常の椅子に座れない方もいますので、「全員車いすにずっと座っているな!」ということは言いません。

しかし、通常の椅子に座ることが出来る方でも、介護職の方で「忙しいのでそのまま車いすに座らせる」ことが多いのが現状です。

車いすを「移動手段」として使うだけでなく、すべての生活で車いすに座っていると、「食事」と「歩行」のケアにおいて課題が出てきます。

ここでは、車いす生活が「食事」と「歩行」にどのような影響を与えるかを理解して、車いすなしの生活を取り戻す方法をお伝えします。

<車いすに座って食事をする弊害>食事姿勢が崩れる

上の図のように、食事をするときの姿勢はとても大切です。

足底がきちんと床についていて、腰も直角になっている状態が、咀嚼(噛む)力を発揮することができ、嚥下(飲み込み)もスムーズになります。

また、唇ー舌ーのどの線が水平になっていると、食べ物や水を口の中でコントロールしやすくなります。

一方、車いすの座位を見てみましょう。

車いすに座っていると、その構造上お尻の方が低く座るようになります。

そうすると、背中が丸くなり、あごが突き出てる姿勢になります。

そして、車いすのままで食事をすると、その「悪い姿勢」まま食事をすることになります。

「介護の生理学」P76によると・・・

ベット上で食事をしたり、あるいは食堂には行くが車いすに乗ったまま食事をする人では、むせが多くなります。

極端にいうと、こんな感じで食事をするわけです・・・

これだと、誤嚥性肺炎の可能性は高まりますし、胃も圧迫されて苦しくなってしまいます。

車いすにずっと座って生活する弊害とは?

 

車いすは、本来は移動の補助器具です。

しかしながら、車いすを常に使うということは、立ち座りをする機会を失うことになります。

つまり、膝を伸展することが少なくなり、膝が90℃に拘縮する可能性があります。(屈曲拘縮)

こうなると、車いすなしでの生活は出来なくなり、歩行の自立を失うことになります。

 

如何でしょうか?車いすは介助するに便利な道具ですが、「移動の補助具」以外の目的で使用すると、高齢者の歩行と食事の自立性を失うことになります。

 

車いすなしで自立した生活をするためには?

それでは、車いすをどのように使って、高齢者の自立を高めて行ったら良いでしょうか?

食事のときは食卓椅子に座る

車いすはあくまでも「移動の補助具」です。

既に説明した通り、食事をするのにふさわしい椅子ではありません。

食事のときは、食卓の椅子に移り変わって食事をしてもらいましょう。

もちろん、レクレーションやイベント参加のときも、車いすに座って参加するのではなく、椅子に座ってもらいます。

そうすることで、車いすに頼らない生活習慣を作ることが出来ます。

歩行の機会を意識的に増やし、車いすを使わないようにする

車いす生活は、歩行をする機会を失います。

歩かなければ、歩くことを忘れてしまいます。

なので、車いすに頼らないで移動する習慣を促す必要があります。

トイレに行くとき、食堂に行くとき・・・・

ちょっとした距離から歩行してもらうようにうながしていきましょう。

上の写真のように、膝の拘縮があっても、歩く訓練を継続することによって、歩けるようになります。

介護現場で、車いすに座って移動している高齢者がいても、ここまでひどい人は少ないと思います。

手遅れになる前に、歩行してもらうように声をかけをしていきましょう。

まとめ:車いすは移動の補助具!出来るだけ使わないで自立を促そう!

如何だったでしょうか?

確かに介護現場は忙しく、ついつい車いすで移動介助をしてしまいますよね。

でも、その1つ1つの介助が、実はその高齢者の自立を奪っています。

是非ケア全体を見直してもらい、車いすを使わないケアを考えてみては如何でしょうか?

必ず良い結果が見られますよ!

 

 

<食事介助は自立を妨げる?> 自力摂取を促すためにはどうしたら良いか?

さてみなさん。

下のイラストは、介護現場でよく見られる光景かと思います。

手厚い介護で良いと思いますが、何か問題ですか?

そうですね~。問題なさそうに見えます。

食事介助は介護現場でよく実施されている手法ですし、初任者研修や資格の勉強会でも普通に教えられる方法です。

しかし、食事介助は食事の自力摂取を取り戻す機会を失うだけでなく、安全な介助方法ではなく、誤嚥性肺炎になる可能性を高めています。

確かに、ケガや病気のために自力で食事を摂ることが出来ない場合、食事介助が必要かと思います。

その一方で、”食事時間が長くならないように”するために、時間を掛ければ自分でも食べることが出来る高齢者にも「食事介助」をすることが、介護施設でよく見かけられます。

(でもでも・・・・その気持ちもすご~~~く分かります(( ノД`)シクシク…)

しかし介護のプロとしては、「この高齢者は本当に食事介助が必要なのか?」見極める能力も必要かと思います。

ここでは、食事介助が招く問題を改めて考えて、自力摂取を促す方法を解説します。

 

「食事介助」が招く問題点

「食事」とはいったい何か?

別の記事でも上げましたが、食事の持つ意味は「文化」として、「栄養」として、「摂食」としての視点があります。

この3つの視点をバランスよくケアすることが、本来の食事ケアになります。

(詳しくはこちらを確認→https://tjcareconsultant.com/diet/ )

しかしながら、食事介助はこの3つの視点を崩してしまう介助になってしまいます。

では、具体的にどんな問題が起こるか?解説していきましょう。

①自立した個としての存在を否定する

赤ちゃんが成長していく過程で、歩行・食事・トイレを自分で行うようになってきます。

歩行は自分で行動する範囲を広げ、トイレもおむつから離れ、自分の意志で排泄処理をするようになります。

食事も同じことが言えて、「自分の意志で食べ物を選んで口に入れる」という行動になっていき、他人への依存度が低下して、食事の自立度が上がっていきます。

しかし、大人に成長し自立した食事をしてきたにも関わらず、ケガや病気で介護状態に陥り、「自分で食事が出来ない」前提で介護職に「食事介助」させられてしまうと、せっかく維持してきた食事の自立性を低下させる危険性があります。

②食事の味を失わせる

まさか・・・同じものを食べてるのに味が違うの?・・・

・・・と思うかもしれませんが、食べ物の味には「主体性」が強く影響してきます。

本来であれば、自分の意志で食べる順番を決めて、1つのものから次へと食べていきます。

その主体性の中に五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚(=食感))が含まれていて、それを感じながら食事の味を味わうのです。

しかし、食事に主体性がなくなると、それらの感覚も鈍くなり、食事の味も変わってきます。

③誤嚥を起こしやすい

主体的に食事をするということは自分のタイミングで食事が出来ます。

つまりで、摂食→咀嚼→嚥下を自分でコントロールしていることになります。

しかし、食事介助をすることによって、そのタイミングがずれてしまい、誤嚥する可能性が高まります。

特に咀嚼をしっかりして「食塊」を作ることが、嚥下機能の向上につながりますが、この食塊を作るのに時間がかかるにも関わらず、食事介助によって一定の間隔で次々と食べ物が口に入れられてしまいます。

そうするとしっかりとした食塊を作ることが出来ずに、嚥下が上手くいかず、誤嚥してしまうことがあります。

食事介助・・・・実際にやってみました・・・・

この写真は、私の介護教室「かいごのへや」で、実際にみんなで食事介助をし合ってみました。

やってみての感想はやはり・・・・

  • 「食べずらい」
  • 「タイミングが分からない」
  • 「いつスプーンが来るかわからない」
  • 「味がわからない」・・・・

といったことを言っていました。

このように「食事介助」は、自立支援・安全性、両方の視点からも良くない介助だということが理解できたかと思います。では、どのようにしたら他人依存の「食事介助」を止めることが出来るでしょうか?

 

食事介助から自力摂取へ促す方法は?

インターネットで、食事介助になる理由を検索してみると・・・・

  • 身体的な衰え・・
  • 認知機能の低下・・・
  • 嚥下や咀嚼機能の低下・・・
  • 味覚の衰え・・・

・・・などなどが上がってきます。

なので、これらに対してどのように対応するかを考える必要があります。

①「なぜ自力摂取ができない体なのか?」を考え、4つの基本ケアを実践する

食事介助の理由はすべて、身体的衰えが理由になっていますね。

介護の現場にいると、どうしても目の前の事象に対して対応することが多いです。

目の前の高齢者が「食事ができない」・・・だから食事介助をする・・・

しかし、これらは「4つの基本ケア」をしっかり実践し高齢者自身を元気にさせることで、自力摂取を促しやすくなっていきます。

まずは、「水分ケア」と「運動=歩行ケア」を開始してください。

水分飲んで、体を動かすことによって、日中の意識も覚醒し、口腔機能も回復してきます。

また、お腹も動き出してきますので、「食欲」も回復してきます。

そうすることで、自力摂取へと変わっていくことが出来ます。

②高齢者本人が好む食事を提供する

食事は五感を使って楽しむ動作になります。

常態的に食事介助になっても、好きな食べ物は自ら食べることがあります。

これは私の経験ですが、胃ろうを付けた方がデイサービスをご利用になっていました。

普段は胃ろうで食事をすましていましたが、あるとき自宅で自分の好きなケーキを自分から食べたとのこと。

そして、むせることなく飲み込めたと聞きました。

その話を聞いてから、4つの基本ケアを実践しながら、ご本人の好きな食べ物を提供して自分で食べてもらうようにしたら、その後段々と自力摂取になっていきました。

なので、「好きな食べ物」から自力摂取をしてもらうところから始めてみて下さい。

まとめ:「水分+運動+好きな食べ物」で、食事介助から自力摂取へ促そう

如何だったでしょうか?

時間に追われてついやってしまう「食事介助」。

しかし、食事動作そのものに注目するのではなく、「なぜ食べられなくなったのか?」を考えることが大切です。

4つの基本ケアを実践していけば、高齢者は元気になり、自然に食事も自分で摂るようになります。

是非、視点を変えて、自力摂取を促せるようになっていきましょう。

 

何かご意見やご相談、「食事介助」から自力摂取になりました~などの話があれば、コメントもらえる嬉しいです!