さて、みなさん。
下記のイラストは、介護施設でよく見られる運動やレクレーションの様子になります。
何か気が付きませんか?
みんな楽しそうに運動したり遊んだりしてるじゃない?特に問題ないと思うけど・・・
そうですね。
確かに、介護施設別に目的が違うので、上記のようにレクレーションや上半身の運動をしていても、そのこと自体には特に問題はありません。
しかしながら、これを「歩行」という視点から見ると、体を動かしてはいますが、「歩行訓練」にはなってはいません。
別の記事でも書きましたが、ADLの根幹は「歩行」です。こちらを参照
歩行が出来れば、他のADLも改善して、QOLも改善していきます。
よって、デイサービスなどの介護施設で上記のような「運動」しても、高齢者の生活の改善にはつながらないということです。
では歩行はどのようにしたら獲得できるのでしょうか?
自立支援介護では、「運動学習理論」に基づいて、歩行も歩行によってのみ獲得されると言っています。
ここでは、運動学習理論をもとに、歩行は歩行訓練によってのみ獲得されることを理解して、実際どのように歩行訓練をしたら良いかを解説していきます。
運動学習理論とは何か?
「運動学習理論」は人が立ったり歩いたり、スポーツやピアノを弾くなど、生活の中である動作をしなくてはならないこと(動作の課題)に対して、反復運動によってその動きができる状態を作り出し、脳の記憶回路が神経システムを通して、必要な筋肉システム(制御機能)を動かし始める全体の流れを言います。
つまり、ある運動を継続して繰り返していくと、脳の中で神経の接続を作り出し、それによってその運動そのものが自然な動きとして形成されていくことになります。
運動学習理論の原則は下記の3つです。
- 「そのものを使った練習」
- 「反復練習する」
- 「練習量を増やす」
もっと簡単に説明すると、「いっぱいその動きを練習したら、上達するよ!」ってことです。
運動学習には3つのステージがあります。ここでは「ピアノを弾く」ことを例に説明していきます。
学習初期
動作練習の初期段階では、人の体が試行錯誤をしながら、正しい動きが何なのかを探っていきます。
ピアノを弾く場合も、最初は指がひとつひとつの音符を確認しながら、そして鍵盤を確認しながら弾きます。
その動きはぎこちなく、ゆっくりとした動きです。
しかしこの段階で重要なのは、「正しい動き」を「脳の記憶回路」に定着させることなのです。
なので、ひとつひとつの動きを考えながら運動していくことになります。
学習中期
動作練習の中期段階では、常に考えながらではなく、動きのスピード、滑らかさが増して、1つの動きに対する神経回路を形成します。
ピアノを弾く場合でも、考えながら弾いていたピアノが、脳の記憶回路から「この曲を弾く」と指令が来ると、その曲を弾くことができるのと同じです。
ただし、この段階では無意識に動くところまでは行かず、速さやリズムなどの調節が行われます。
学習後期
動作練習の後期段階では、意識的に動かすことはなく、自動化して滑らかな動きになって来ます。
いわゆる「反射的に動ける」ようになってきます。
ピアノで言うと、「ピアノに座って鍵盤に触れると勝手に曲を弾きだす」のと同じになります。
このように、どんな動作の練習でも、最初の動きに粗さやぎこちなさがあり、脳からの意識的な注意と集中が必要としますが、練習を重ねていくうちにその動作が細やかかつ滑らかになって来て、注意と集中が不要になってきます。
これが「運動学習理論」になります。
歩行も「学習」によって歩けるようになる
上記のピアノと同じように、歩行も同じことが言えます。
運動学習理論の原則にもとづけば、
- 「歩行」を使って「歩行練習」をする
- 「歩行練習」を反復する
- 「歩行練習」をたくさんする
・・・ということになります。
歩行が出来なくなった高齢者の多くは、ケガや病気、加齢によって行動範囲が狭まり、歩行する機会を失い、その結果ととして歩行をしなくなり、「歩行の仕方」を忘れるという「廃用症候群」的なケースです。
いったん出来上がった運動の神経回路も、その運動を休んでいると衰退し始め、やがてその運動が出来なくなってしまいます。
しかしながら、一度歩行したことがある高齢者ならば、その神経回路を再度回復させれば良いのです。
最初のうちはぎこちなく、一歩一歩考えながら歩く練習をするかもしれません
しかし、次第に脳の記憶回路に歩行動作の正しい情報が再度インストールされ、次第に細やかな滑らかな動きが無意識にできるようになります。
リハビリ病院で行われるリハビリと介護施設での機能訓練の違い
リハビリ病院では、脳卒中後回復期に「姿勢・支持性・動作性」の3つを改善させようとします。
流れとしては下記のようになります。
- 立位姿勢が安定
- 立位姿勢を両脚である程度支持できる
- 特に麻痺の下肢が前に出て歩行動作ができる
- 平行棒を使って歩行訓練
- T字杖もしくは4点杖を使って歩行訓練
- 安定性がある程度確立したら平行棒の外で歩行訓練
つまり、姿勢がしっかりできるようになってから、歩行訓練を開始するという考えになっています。
脳卒中などの回復期におけるリハビリでは、この「姿勢優勢」の方法が効果的ではあります。
その一方、介護施設の場合は、廃用症候群や運動不足など、活動量が少ないために歩けなくなっているケースが多いです。
なので、生活の中に「歩く」という活動を増やすことで、歩行能力を回復していく方が効果的です。
介護施設での具体的な歩行訓練の流れ
では実際にどのような流れで歩行訓練をしていったら良いでしょうか?
全体図を見ながら説明していきます(介護の生理学P149の図をもとに作成)。
5秒つかまり立ちテスト
まずは手すりを掴んでもらい、5秒間掴まったままで良いので立位を保持出来たら、すぐに歩行訓練に移ります。
5秒間掴まり立位が保持できるということは、「介助歩行器歩行」によって「歩行訓練」ができることを意味します。
基本「立てる人は歩ける」という考えから、つかまり立ちが出来れば歩けるということになるわけです。
歩行器を使う
平行棒を使っての歩行訓練が一般的ですが、手引き歩行同様、重心が後ろに行ってしまう歩行になります。
その一方、歩行器は支持性が高く、歩行本来の重心が前に行く練習がしやすいです。
詳しくはこちらのHPをご参照下さい。
1日の歩行回数・距離を多くする
運動学習理論から考えれば、すべての動作は反復練習を重ねることによって習得できます。
歩行も同じです。
忘れてしまった歩行の仕方を取り戻すには、歩行の練習量を増やし、歩行する距離を伸ばしてくしかありません。
訓練するときだけでなく、生活の中に歩行する機会をどんどん入れていきましょう。
やってはいけないこと・効果がないこと
- 手引き歩行・平行棒歩行・・・・これに関してはこちらを参照願います→HP
- 関節可動域訓練・・・・ベットや車いす中心の生活をしているにも関わらず、末梢神経だけを動かしても歩行の訓練にならない・・・という意味です。
- 寝返り、起き上がり、立ち上がり訓練・・・これらは~回復期に行われる訓練で、廃用症候群などで運動能力を失った高齢者には、歩行の訓練として意味がありません。
免荷装置付トレッドミルを活用して歩行訓練をする
以前私が勤めていた「ポラリスデイサービスセンター」では、下記のように「免荷装置付トレッドミル(通称:Pウォーク)」を使って歩行訓練をしていました。
免荷装置を付けることで、体重が最大半分まで免荷することができ、正しい足の運びに集中して歩行練習をすることが出来ます。
また、免荷装置を付けることで転倒の防止につながり、歩行中にスタッフが常時いなくても練習が出来ます。
動画があるので、是非ご覧ください。
事業所様で導入にご興味ある方は、下記のお問合せまでご連絡下さい。
まとめ:5秒立位保持できる人にはすぐに歩行訓練してもらい、歩行の自立を促そう!
如何だったでしょうか?
運動学習理論はそんなに難しいことを言ってはいません。
立位保持できる人は歩くことが出来ます。
なので、歩く機会が増えれば、必ず歩けるようになります。
介助で忙しく、ついつい車いすとかで移動させてしまっているかもしれません。
しかし、高齢者の自立を促すのであれば、是非歩行の機会を増やしていきましょう。
必ず良い結果が生まれて来ますよ。