絵本『おおきな木』をご存じでしょうか。

少年と一本の木の物語です。少年は小さい頃、その木に登ったり、実を食べたり、木陰で遊んだりして過ごします。しかし少年が成長すると、木のもとを訪れる理由は少しずつ変わっていきます。お金がほしい、家がほしい、船がほしい。木はそのたびに、自分の実を与え、枝を与え、幹を与え、最後には切り株だけになります。それでも木は、少年が戻ってくることを喜びます。
ポイント
『おおきな木』は「無償の愛」として読まれることもありますが、大人になって読むと「与える側だけが削られ続ける関係は、本当に健全なのか」とも考えさせられる物語です。
私はこの話を、介護事業所の運営にも重ねて考えることがあります。
介護の仕事は、人を支える仕事です。だからこそ、優しさや思いやりは欠かせません。しかし、優しさだけで組織は続きません。誰か一人が「おおきな木」のように与え続けることで成り立つ職場は、長い目で見ると必ずどこかに無理が出ます。
職員だけが疲弊しても、会社だけが疲弊してもいけない
たとえば、会社側が職員に対して「もっとやれ」「まだできる」「現場なんだから仕方ない」と求め続ければ、職員は疲弊します。いわゆるブラック企業的な状態です。
最初は責任感で頑張れても、やがて心も体もすり減っていきます。結果として、離職や不満、サービスの質の低下につながります。
一方で、職員側の要望をすべて会社が受け入れ続けることも、健全とは言えません。
「休みを増やしてほしい」「給料を上げてほしい」「この仕事はやりたくない」――もちろん、一つひとつの声を丁寧に聞くことは大切です。しかし、会社にも限界があります。売上、利益、人員体制、利用者への責任があります。
会社が何でも受け入れ続ければ、今度は会社そのものが疲弊してしまいます。
つまり、大切なのはこの視点です。
- 職員だけが疲弊してはいけない
- 会社だけが疲弊してもいけない
- どちらか一方が与え続ける関係では続かない
介護事業に必要なのは「三方良し」の関係
大切なのは、どちらか一方が与え続ける関係ではなく、お互いが支え合う関係です。
これは単なる「ギブアンドテイク」という冷たい損得勘定ではありません。介護事業においては、職員、会社、そして利用者・家族・地域の三者がよくなる「三方良し」の考え方が必要です。
介護事業における三方良し
- 職員が健康で、安心して働けること
- 会社が継続できる経営状態であること
- 利用者に安定した良いサービスが提供できること
この3つは、切り離して考えることができません。
職員が疲弊すれば、良いサービスは続きません。会社が疲弊すれば、職員を守ることもできません。そして、その影響は最終的に利用者や家族に及びます。
管理者の役割は「バランスを取ること」
管理者の役割は、まさにこのバランスを取ることだと思います。
現場には、職員に仕事を押し付けてしまう管理者もいます。自分の立場や数字ばかりを優先して、現場の負担に気づけないケースです。これでは職員の信頼は失われます。
逆に、職員に言われるまま何でも自分で背負ってしまう管理者もいます。
「職員に負担をかけたくない」「嫌われたくない」「自分がやった方が早い」と考えてしまうタイプです。
実は私自身も、どちらかというとこちらの傾向がありました。職員にあまり無理をさせたくない。できれば自分が抱えればいい。そんなふうに考えていた時期があります。
しかし、それも長い目で見ると健全ではありません。
管理者が抱え込みすぎると、職員は育ちません。役割分担も曖昧になります。そして、管理者自身が疲弊していきます。
最終的には、現場全体の判断力や改善力が弱くなってしまいます。
誰か一人が犠牲になる職場を、美談にしてはいけない
本当に良い職場とは、誰か一人が犠牲になる職場ではありません。
- 会社がやるべきことは会社がやる
- 管理者が担うべきことは管理者が担う
- 職員が役割として担うべきことは、きちんと担う
その上で、困った時には助け合う。無理がある時には相談する。改善できることは一緒に変えていく。
これが、介護事業に必要なチームの姿ではないでしょうか。
『おおきな木』の物語は、与えることの尊さを教えてくれます。ただ、介護現場の組織運営にそのまま当てはめるなら、少し注意が必要です。
誰かが切り株になるまで与え続ける職場を、美談にしてはいけません。
必要なのは「持続可能な優しさ」
介護の仕事は、優しさが必要な仕事です。けれども、優しい人が消耗していく仕組みであってはいけません。
職員の善意に頼りすぎてもいけないし、会社の体力を無視して要求だけを重ねてもいけません。
大切なのは、持続可能な優しさです。
- 職員も守られる
- 会社も守られる
- 利用者も守られる
このバランスがあって初めて、良い介護サービスは継続できます。
介護事業所の管理者は、日々たくさんの板挟みにあいます。職員の声、会社の方針、利用者の希望、家族の要望。その中で、どちらか一方に偏らず、全体を見ながら調整していく力が求められます。
まとめ:会社は無償の愛ではない。だからこそ、支え合う
「会社は無償の愛ではない」
この言葉は、一見冷たく聞こえるかもしれません。しかし本当は、会社も職員も利用者も、みんなが長く続いていくための現実的で大切な考え方だと思います。
誰か一人が与え続けるのではなく、互いに役割を果たし、支え合い、感謝し合う。
その積み重ねが、介護現場に本当の意味での安心と信頼をつくっていくのだと思います。
介護事業に必要なのは、自己犠牲ではなく、支え合いのバランスです。
職員、会社、利用者。三者が無理なく続いていく仕組みをつくることが、これからの介護現場には求められています。


コメント